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UXデザインをするなら押さえておきたい、定性調査の基本

デザイン

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UXデザイン(ユーザーエクスペリエンスデザイン)という言葉が最近ではよく使われるようになり、カスタマージャーニーマップなど、UXデザインの手法を紹介する記事も多くなりました。
「UXデザイン」という言葉は、直訳を活用して、「ユーザーの体験をデザインすること」と定義したいと思います。

デザイン思考やデザインスプリントは、UXデザインのフレームワークと言えますが、その過程で「定性調査」を使うことは、UXデザインの大きな特徴です。
「定性調査」は、UX デザインが有名になる前から、さまざまな研究分野で使われている手法です。

UXデザインの具体的な手法については、分かりやすい記事や本がたくさんあるので、今回は、「定性調査」に改めて着目することで、UXデザインの根本的な考え方を紹介していきます。

数量化しにくいデータから日常的な言葉で分析する定性調査

定性調査の説明としては、次のように書かれています。

主にインフォーマル・インタビューや参与観察あるいは文書資料や歴史資料の検討などを通して(技法)、文字テクストや文章が中心となっているデータを集め(データ)、その結果の報告に際しては、数値による記述や統計的な分析というよりは、日常言語に近い言葉による記述と分析(報告書の文体)を中心とする調査法(『フィールドワーク 書を持って街へ出よう 増訂版』より抜粋)

つまり、数量化しにくいデータを集め、統計的に分析するのではなく、日常的な言葉で理解していく調査方法を指します。
もう少し深い意味を込めると、「人々の行動や言葉から、その人自身や社会に対する意味を調べる」ということになり、別名、質的調査とも言います。

具体例をみてみましょう。UXデザインに関係のある例だと、以下のようなケースが定性調査です。

・POSレジの改善のために、実際に使われているコンビニに出向いて、使っている様子を観察する(狭い意味でのフィールドワーク)
・最近の高校生のニーズを知るため、テレビ、新聞、雑誌、インターネット、SNS等の情報を集めて分析する(広い意味でのフィールドワーク)
・海外のある地域での新規事業立ち上げのために、実際にその地域に住み、地域の人と交流しながら観察する(参与観察)
・事前に用意した質問だけではなく、臨機応変に会話をしながらユーザーインタビューをして、分析する(インフォーマルインタビュー、半構造化インタビュー)

UXデザインの中では、特に、ユーザーインタビューが、調査方法として馴染みがあるのではないでしょうか。

「現場」で広まった定性調査

ここで、定性調査が広まった背景をみておきます。
まず、1920年代には、人類学や社会学を中心に、現場密着型のフィールドワークの有効性が広く知られるようになります。
しかし、1950年代はじめから、「実証主義」「客観主義」「科学主義」を背景とした、「行動科学」というアプローチが台頭します。
これは、数値データのみを信頼できるデータとみなし、立てた仮説に対して、実証されたか否かという、白黒はっきりした判断をしなければならないという考え方です。
その後、1970年代後半に入ってから、欧米では、質的研究法が再評価されます。
質的アプローチは、これまでの、「個別の事情」は捨てることで、科学的であろうとする量的アプローチとは角度の違ったものです。
「個別の事情」を重視する定性調査は、社会学以外にも、教育や看護の「現場」で広まっていきます。「現場で広まる」という点からも、ユーザーに焦点を当てたUXデザインと、定性調査の相性が良いことが分かります。
そして、2000年代に入ってから、ユーザーエクスペリエンスという言葉が目立つようになってきました。
なぜ今、定性調査が求められるのか、という点ですが、急速に社会が変化し、その結果、生活や考えが多様化することによって、既存のルールや、社会の見方を、そのまま使うことができなくなりました。
そこで、今度は、個別のケースから、社会を捉えていく必要があり、そのために、定性調査が求められるようになっていると言われています。複数人にインタビューして、その結果を複数のペルソナとして形式化していくUX デザインの作業も、個別から全体を見るという流れです。

定性調査と定量調査の違い

「数量化しにくいデータから日常的な言葉で分析する」定性調査に対し、定量的調査は、以下のように表現されます。

統計データの分析やサーベイ調査の結果をもとにした社会調査のように(技法)、数値データを中心にして分析を進め(データ)、その結果については、主にグラフや数値表あるいは数式などで表現する(報告書の文体)方法(『フィールドワーク 書を持って街へ出よう 増訂版』より抜粋)

これはそのまま解釈しても分かりやすい定義です。グラフでまとめられた統計データの資料が思い浮かびます。

定性と定量の違いは沢山あるのですが、簡単に言うと、定性調査は「深く狭く」調べるのに対し、定量調査は「浅く広く」調べるやり方です。
例えば、個別ユーザーインタビューは、1人2時間とみても、1日に数人しかできませんが、一つ一つの発言の理由など深い内容を聞くことができます。
それに対して、アンケートは、1つの様式で何千もの人に対して質問することができる一方、アンケートで深い内容を回答をしてもらうことには限界があります。

定性と定量の対立は、専門家の間で激しい論争が繰り返されてきました。
定量調査の立場からすると、定性調査の報告書は、主観が入り、実証に乏しいエッセイのようなもので、科学的ではないとされます。
定性調査の立場からは、定量調査は、現場を知らずに、物事の表面をなでただけのことを、もっともらしく数字で見せているだけ、と言われます。
定量調査は、「森を見て木を見ず」、定性調査は「木を見て森を見ず」という状態になりがちだと言われます。

どちらも、それなりに納得できる批判ですが、結局、両方の手法が、弱みと強みを持っているということです。
そこで、「トライアンギュレーション」という考え方があります。アプローチの違う複数の調査手法を組み合わせることで、それぞれの限界を克服して、分析結果の妥当性を高めようという考え方です。
気をつけるべきことは、がむしゃらに、色々な調査方法をやるのではなく、それぞれの調査の特徴を理解した上で、戦略的に組み合わせることに意味があります。
調査を行なう前に、「この調査で何を知りたいのか?何が分かるのか?」ということを整理しておくことが大切です。

定性、定量のメリット・デメリットは、以下のページを読んでみてください。
http://www.systrat.co.jp/theory/method05lrdb1.html

定性調査に仮説は必要?

「今は何も分からないから、とりあえずインタビューしてみよう」という姿勢は正しいでしょうか?

答えは、「気をつければ、それも正しい」です。

調査の最初の段階では、そもそも何も分からないので、白黒はっきり立証できる、定量調査で用いられるような仮説を立てるのは不可能に近いです。実際、なんとなくの仮説すら持たないまま、調査した後にはじめて、「こうなのではないか」という解釈が生まれることも多いです。
大切なことは、その「こうなのではないか」という解釈が、あくまで解釈に過ぎないことを自覚して、それをもとに、繰り返し定性調査や、定量調査を行なって、ある程度根拠のある意見にしていく必要があります。
普段UXデザインを使う仕事の現場では、調査時間も限られますが、ただでさえ曖昧な報告になりがちな定性調査なので、「今の調査はどのような段階にあるのか」ということは、意識して報告する必要があると思います。
それには、調査中、次のようなセルフチェックをしながら進めると良いと言われているので、参考にしてみてください。

・調べようと思っている問題は、いま、どの程度明らかになったのか
・明らかになったことは、はじめの予想と同じだったか?違っていたとしたら、違いは何か、違いが出た理由は何か、思いもよらない発見は何か
・まだ分かっていないことはどんなことか?それを明らかにするにはどのような手段をとれば良いか?その場合、どのような結果が出ると予測するか

また、「とりあえずインタビュー」するにしても、知りたいことに対して精度の高い質問をするためにも、対象に対しての事前の情報収集を行なうと、より効率的で効果的な調査となります。

定性的コーディングで分析する

ウェブデザイナーには馴染みのある、「コーディング」という言葉ですが、定性調査で分析する際にも使われます。
下の画像の実例にあるように、細かく記述した観察記録に対して、「小見出し」を付けています。
ユーザーインタビューの場合には、テープ起こしが、観察記録の代わりになります。
この小見出し同士を比較したり、お互いの関係を整理する作業自体が、分析の過程になります。
情報の構造や関係性を考えて、組み立てるという点は、普段ウェブで行われる「コーディング」の作業と通ずるところがありますね。この方法で有名なのは「KJ法」です。

KJ法については、以下のページで説明されています。
http://www.usablog.jp/2009/06/kj.html

よくワークショップで取り上げられる、カスタマージャーニーマップも、最初の情報を、組み立て直して視覚化しているので、コーディングの一種と言えそうです。
いずれにせよ、調査対象の言葉、行動を鵜呑みにせず、いったん情報をばらばらにして、組み立て直すことが、定性調査における分析の大切なところです。
これを、「脱文脈化」と「再文脈化」といいます。

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(『フィールドワーク 書を持って街へ出よう 増訂版』 佐藤郁哉著より抜粋」)

まとめ

以上、定性調査とは何か?というところから、時代背景、定量調査との違い、調査を進める上での仮説の必要性、分析方法について見てきました。
心理学者のやまだようこは、質的調査の根本を、「具体的な事例を重視し、それを文化・社会・時間的文脈の中でとらえようとし、人びと自身の行為や語りを、その人びとが生きているフィールドの中で理解しようとする」と言っています。
この姿勢は、デザイン思考の「ユーザーに共感してインサイトの発見する」考え方に通じるところがあると思います。
定性調査は、曖昧で主観的なところがあり、なかなかとらえどころのない調査手法ではありますが、自分の頭の中の考えとは違う発見を与えてくれる手法だと思います。
定性調査の特徴を理解した上で、UXデザインの様々な手法を活用し、サービスの向上に活かしていきたいと思います。

参考にした書籍:
『フィールドワーク 書を持って街へ出よう 増訂版』 佐藤郁哉著
『質的研究入門―“人間の科学”のための方法論』 ウヴェ フリック著 小田博志訳

執筆者プロフィール

ショットワークスメディア事業部に所属しデザインを担当するT氏。新卒では専門出版社にて3年半、営業事務として働く。
その後、ウェブデザインを学び、インディバルにてデザイナー人生をスタートさせる。
お酒の中では日本酒が好きで、社内では、不定期開催される日本酒の会に所属し、利き酒を楽しんでいる。